ミナミの地面師② 人は何を信用してしまうのか
■ 真実に紛れ込むウソ
「詐欺師は9割5分、本当のことを言う」
ノンフィクション作家 森功さんの言葉です。
人は、明らかなウソだけを並べられても信用しません。だから詐欺師は、本当の情報を巧みに利用し、その中へ、ごくわずかなウソを紛れ込ませることで、全体に真実味を持たせます。
多くの人が思い描く「いかにも詐欺師」という人物像は、現実とは少し違います。「詐欺師」と聞くと、最初から人をだますことを生業とし、偽名を使いながら暗躍する人物を思い浮かべがちですが、今回の大阪・ミナミ地面師事件では、主犯格は本名で活動していたと報じられています。
■ 詐欺師は特別な存在ではない
詐欺師は、最初から詐欺師として現れるとは限りません。ごく普通の取引相手として接し、何の違和感もなく会話を重ねる中で信頼を得て、事件が明るみに出って初めて「あの人が詐欺師だったのか」と気付かされる。その現実こそ、「詐欺師は9割5分、本当のことを言う」という言葉を裏付けているようにも思えます。
日常のビジネスにおいて、「目の前の相手が偽名かもしれない」「実在しないかもしれない」と疑うことはまずありません。私たちは、名刺や書類が提示されれば、それが「本名であり実在する人物だ」と、疑うことすらなく前提として受け入れてしまいます。 しかし、詐欺師が利用しているのは、まさにその無防備な心理です。本当の情報を積み重ねることで相手の警戒心を和らげ、最後に隠したい一点だけを巧妙にすり替える。そのわずかなウソが、多くの「本当」の中へ埋もれてしまうのです。
つまり、地面師事件や詐欺事件で問われているのは、「人は何を信用してしまうのか」ということです。
■ 反社チェック・コンプライアンスチェックが果たす役割
企業にとって本当に警戒すべきなのは、映画やドラマに登場するような特別な犯罪者だけではありません。ごく普通の取引相手として接していた人物が、気付けば人をだますことへの抵抗を失い、犯罪へ踏み込んでしまう。企業危機管理に求められるのは、「今、目の前にいる人物」だけではなく、その人物の過去まで含めて見極める視点です。
企業危機管理という視点で振り返ると、この事件の見え方は大きく変わります。 今回の事件で主犯格とされる福田裕は、日本信用情報サービスの反社チェック・コンプライアンスチェックデータベース『JCIS WEB DBⓇ Ver.3』に登録されており、2014年時点で「有印私文書偽造・同行使容疑で逮捕、送検」という情報が確認されていました。
▲JCIS WEB DBⓇ Ver.3には 2014年(事件発生前)、2025年(事件発生後)に登録されていた
■ 企業危機管理を支える「過去」の情報
地面師事件では、本人確認書類、委任状、印鑑証明、契約書など、あらゆる書類が犯罪の根幹になります。そのため、「過去に文書偽造関連で摘発されていた人物」という情報は、不動産取引において極めて重要なリスク情報だったと言えます。
今回の問題の本質は、「情報が存在しなかった」ことではありません。その人物の過去と現在を結び付ける視点が欠けていたことにあります。
その人物の「過去」を、現在の取引リスクへどう結び付ければよいのでしょうか。最終回は、企業防衛という視点から、反社チェック・コンプライアンスチェックに本当に求められる役割を考えます。
掲載元:日本信用情報サービス株式会社
