フリーランス・副業人材にこそ必要?”雇わない雇用”時代の反社チェック
目次
採用ではなく業務委託・クラウドワーカー等へのチェックの必要性

■ はじめに
働き方改革、デジタルトランスフォーメーション、そして新型コロナウイルスの影響により企業の人材活用は大きく変化している。正社員採用一辺倒から業務委託やフリーランス、クラウドワーカーなど多様な働き手との協働が当たり前となった現在、企業が直面する新たなリスクが生じている。それが「雇わない雇用」における反社会的勢力との関係遮断だ。
従来の採用プロセスでは当然とされてきた反社チェックが業務委託や単発プロジェクトでは疎かにされがちだが雇用契約がないからといってリスクが消えるわけではない。むしろ、関係性が希薄で契約期間が短いからこそより慎重なチェックが必要かもしれない。
■ 拡大する「雇わない雇用」の現実
⇒ 統計が示す変化の波
厚生労働省の調査によると、副業・兼業を希望する雇用者数は年々増加傾向にある。一方で、企業側も専門性の高い人材を必要な時に必要な分だけ確保したいというニーズから外部人材の活用を積極化している。
この流れは特にIT・デジタル分野で顕著だ。システム開発、Webデザイン、マーケティング、コンテンツ制作などプロジェクトベースで完結する業務では社内リソースに頼らずフリーランスや専門会社に委託するケースが急増している。
⇒ 新しい働き方、新しいリスク
しかし、この変化は企業に新たなリスクをもたらしている。従来の正社員採用では、履歴書・職務経歴書の確認、面接、リファレンスチェック、そして反社チェックという一連のプロセスを経て人材を選別してきた。ところが業務委託の場合「とりあえず仕事ができればいい」という発想でバックグラウンドチェックが疎かになりがちだ。
特にクラウドソーシングプラットフォームを通じた取引では相手の素性がほとんど分からないまま業務を開始することも珍しくない。匿名性の高い取引環境では悪意ある第三者が紛れ込むリスクは決して低くない。
■ 反社チェックの盲点となる業務委託
⇒ 法的義務の曖昧さ
企業が反社会的勢力との関係を遮断する義務は、主に株主、取引先、そして従業員に対して生じる。しかし業務委託についてはその関係性の性質上どこまでチェックすべきかの基準が曖昧になっている。
金融庁の「金融検査マニュアル」や各業界団体のガイドラインでも業務委託先の反社チェックについては正社員ほど詳細な規定がない場合が多い。この法的・制度的な隙間が企業のリスク管理を困難にしている。
⇒ 実務上の課題
業務委託の反社チェックには正社員とは異なる課題がある。
まず時間的制約だ。正社員採用では数週間から数ヶ月の選考期間があるのに対し業務委託は「来週からすぐに」というケースが多い。十分な調査時間を確保できないまま契約を結ばざるを得ない状況が頻発している。
次に情報収集の困難さがある。フリーランスの場合、会社としての登記情報や役員情報がない個人事業主も多く、調査対象となる情報そのものが限定的だ。また、プライバシー保護の観点から個人に対して過度な情報開示を求めることも適切ではない。
コスト面での制約も無視できない。数万円程度の小規模案件に対して数十万円のデューデリジェンスを実施するのは現実的ではない。費用対効果を考慮した合理的なチェック方法の確立が求められている。
■ 見過ごされるリスクの実態
⇒ 情報漏洩・機密保持の観点
業務委託先が反社会的勢力と関係を持つ場合、最も深刻なリスクは機密情報の流出だ。企業の戦略情報、顧客データ、技術情報などが意図的に外部に漏洩される可能性がある。
特にIT関連の業務委託ではシステムへのアクセス権限を付与することが多い。悪意ある委託先がシステムに不正アクセスしデータを抜き取ったり改ざんしたりするリスクは深刻だ。過去には業務委託先の従業員による大規模な情報漏洩事件も複数報告されている。
⇒ 金銭的被害・詐欺のリスク
反社会的勢力の関与により直接的な金銭被害を受けるケースもある。架空の業務による代金詐取、過大請求、不当な追加費用の要求など様々な手口が報告されている。
また、業務委託契約を隠れ蓑にしたマネーロンダリングに巻き込まれるリスクも存在する企業が知らないうちに違法資金の流通経路として利用される可能性だ。
⇒ レピュテーションリスク
企業が反社会的勢力と関係のある個人・団体と取引していることが発覚した場合、社会的信用の失墜は避けられない。特に上場企業や金融機関では株価下落や取引停止など深刻な経営への影響が生じる可能性がある。
近年はSNSの普及により企業の不祥事が瞬時に拡散される時代だ。業務委託先との関係であっても「反社との取引」として厳しい批判を受けるリスクは高い。
■ 新時代に求められる反社チェック体制
⇒ 段階的アプローチの導入
全ての業務委託に対して同一レベルの反社チェックを実施するのは非現実的だ。契約金額、業務内容、アクセス権限の範囲などに応じて段階的な反社チェック体制を構築することが重要である。
例えば、以下のような分類が考えられる:
レベル1(基本チェック): 契約金額50万円未満、機密情報へのアクセスなし
● 本人確認書類の照合
● 簡易的なWeb検索による確認
● 反社チェックデータベースへの基本照会
レベル2(標準チェック): 契約金額50万円以上500万円未満、または限定的な機密情報アクセスあり
● レベル1の内容に加えて
● 過去の取引実績・評判の調査
● 関係者(役員、主要株主等)の基本的な反社チェック
● 専門業者による簡易調査
レベル3(詳細チェック): 契約金額500万円以上、または重要な機密情報アクセスあり
● レベル2の内容に加えて
● 第三者機関による詳細な身元調査
● 財務状況の確認
● 継続的なモニタリング体制の構築
⇒ テクノロジーの活用
AI技術やビッグデータ解析を活用した効率的な反社チェック体制の構築も重要だ。
自動スクリーニングシステム: 契約相手の基本情報を入力すると、複数のデータベースを横断して自動的に反社チェックを実行しリスクレベルを判定するシステムの導入が進んでいる。
継続監視システム: 契約後も定期的に相手方の状況をモニタリングし、新たなリスク要因が発生した場合にアラートを発する仕組みの構築も有効だ。
ブロックチェーン技術の応用: 信頼できる第三者機関が発行するデジタル証明書を活用することで効率的かつ確実な身元確認を行う取り組みも始まっている。
■ 実践的な対策とガイドライン
⇒ 契約書面での明記
業務委託契約書には反社会的勢力との関係遮断に関する条項を必ず盛り込む必要がある。
具体的には以下の要素を含めるべきだ:
● 反社会的勢力でないことの表明・保証
● 将来にわたって反社会的勢力との関係を持たないことの誓約
● 違反が発覚した場合の即座の契約解除権
● 損害賠償責任の明確化
● 定期的な確認・報告義務
⇒ 社内体制の整備
反社チェックを実効性のあるものにするためには社内体制の整備が不可欠だ。
専門部署の設置: 一定規模以上の企業ではコンプライアンス部門に反社チェック専門の担当者を配置することが望ましい。
教育・研修の実施: 業務委託を発注する部門の担当者に対して反社チェックの重要性と実施方法について定期的な教育を行う。
外部専門機関との連携: 自社だけでは限界がある調査については信頼できる外部の調査機関との連携体制を構築する。
継続的な見直し: 社会情勢の変化や新たな手口の出現に対応するために反社チェック体制を定期的に見直し、改善を図る。
■ 業界別の特殊事情と対策
⇒ IT・システム開発業界
システム開発ではソースコードや設計書など企業の競争力の源泉となる情報を外部人材が扱うことが多い。また、本番環境へのアクセス権限を付与するケースもあり特に慎重なチェックが必要だ。
この業界では技術的なスキルを重視するあまり人物面のチェックが疎かになりがちな傾向がある。フリーランスエンジニアのスキルマッチングプラットフォームでも技術レベルの評価は詳細だが身元確認は最低限というケースが多い。
⇒ マーケティング・広告業界
マーケティング業務では顧客情報や売上データなど機密性の高い情報を扱うことが多い。また、企業のブランドイメージに直結する業務であるため委託先の素性は特に重要だ。
SNSマーケティングやインフルエンサーマーケティングでは個人の影響力を活用するためその個人の過去の発言や行動についても慎重に調査する必要がある。
⇒ コンテンツ制作業界
動画制作、ライティング、デザインなどのクリエイティブ業務では著作権や肖像権の問題に加えて制作物の内容が企業イメージに与える影響も考慮する必要がある。
特に、政治的・宗教的な思想が強く反映される可能性のあるコンテンツでは制作者の背景について十分な確認が必要だ。
■ 中小企業における現実的なアプローチ
⇒ コスト制約への対応
中小企業では大企業のような充実したチェック体制を構築することは困難だ。しかし、最低限のリスク管理は必要である。
業界団体の活用: 同業他社との情報共有や業界団体が提供するチェックサービスの活用が有効だ。
段階的導入: 重要度の高い業務から段階的にチェック体制を強化していく。
外部サービスの活用: 自社でチェック体制を構築するよりも外部の専門サービスを活用する方が効率的な場合も多い。
⇒ 簡易チェックの工夫
コストを抑えながらも実効性のあるチェックを実施するための工夫も重要だ。
過去の取引実績の重視: 他の企業での取引実績や評判を重視することでリスクを軽減できる。
紹介制の活用: 信頼できる取引先からの紹介を重視することで一定の信頼性を確保できる。
段階的な業務拡大: 最初は小規模な業務から開始し信頼関係を築いてから重要な業務を委託する。
■ 法制度の動向と今後の展望
⇒ 規制強化の方向性
金融庁や警察庁では反社会的勢力との関係遮断に向けた取り組みを強化している。今後は業務委託についてもより厳格なチェックが求められる可能性が高い。
特に、マネーロンダリング対策の観点から一定金額以上の業務委託についてはより詳細な身元確認が義務化される可能性もある。
⇒ 国際的な動向
欧米ではサプライチェーン全体でのコンプライアンス確保が重視されており業務委託先についても厳格なチェックが求められている。日本企業が海外展開する際にはこれらの基準に対応する必要がある。
⇒ テクノロジーによる解決
ブロックチェーン技術やAIを活用した新しいチェック手法の開発も進んでいる。今後は、より効率的で確実なチェック体制の構築が可能になると期待される。
■ まとめ:新時代のリスク管理
働き方の多様化が進む中で企業は「雇わない雇用」時代の新たなリスクに直面している。業務委託やフリーランス活用のメリットを享受しながらも反社会的勢力との関係遮断という基本的な責務を果たすことが求められている。
重要なのは完璧なチェック体制を一朝一夕で構築しようとするのではなく自社の事業規模や業務内容に応じた現実的なアプローチを採用することだ。段階的なチェック体制の導入、テクノロジーの活用、外部専門機関との連携など、様々な手法を組み合わせることで実効性のあるリスク管理が可能になる。
また、法制度の動向や業界のベストプラクティスにも注意を払い継続的な改善を図ることが重要だ。
「雇わない雇用」時代だからこそ企業はより慎重で戦略的なリスク管理が求められている。反社チェックはもはや正社員採用時だけの問題ではない。全ての外部人材との関係において企業の社会的責任を果たすための必須の取り組みなのである。
この新しい時代のリスク管理を適切に実施することで企業は安心して多様な人材を活用し事業の成長と社会的信頼の両立を図ることができるだろう。
リスク管理においては日本リスク管理センターの反社チェックツール(反社チェック・コンプライアンスチェック)を有効利用することで適切な管理を行う事ができます。

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