上場企業と反社チェック:企業価値を守るための必須対策

著者名:日本リスク管理センター 企業リスク管理部

■はじめに:なぜ上場企業に反社チェックが不可欠なのか

企業が株式市場への上場を目指す際は、多くの審査項目をクリアする必要があります。その中でも特に重要視されているのが「反社会的勢力との関係性の排除」です。上場企業として市場での信頼を獲得し投資家を保護するために反社チェックは避けて通れない課題となっています。
近年、反社会的勢力は巧妙に一般企業に溶け込んでおり表向きは健全な企業活動を装っているケースも少なくありません。上場準備中の企業だけでなく既に上場している企業においても継続的な反社チェックの実施が求められる時代になっているのです。
本記事では上場企業における反社チェックの重要性・具体的な実施方法・そして企業が取るべき対策について実務的な観点から詳しく解説していきます。

■反社会的勢力とは何か

反社会的勢力とは暴力・威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団または個人を指します。具体的には暴力団やその関係企業・総会屋・特殊知能暴力集団などが該当します。
政府は2007年に「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を策定し企業に対して反社会的勢力との関係遮断を求めています。この指針自体に法的拘束力はないものの違反した場合には企業の代表者に対する勧告や損害賠償責任を問われる可能性があり決して軽視できるものではありません。
また、近年では暴力団排除条例の制定により暴力団構成員の数は減少傾向にありますが、その分だけ表面上は一般企業や個人として活動し社会に巧妙に溶け込んでいるケースが増えています。フロント企業を通じた経済活動や一見すると健全な取引を装った資金獲得などその手口は年々巧妙化しているのが現状です。

■上場企業における反社チェックの重要性

△ 上場審査における位置づけ

東京証券取引所をはじめとする各証券取引所では投資家保護の観点から上場審査において反社会的勢力との関係性を厳格にチェックしています。上場審査の実質審査基準では「反社会的勢力による経営活動への関与を防止するための社内体制を整備し当該関与の防止に努めていること及びその実態が公益又は投資者保護の観点から適当と認められること」という明確な基準が設けられています。
上場申請時には代表者名で「反社会的勢力との関係がないことを示す確認書」を提出する義務がありこの確認書には役員・株主(上場準備企業の場合は上位50名)・主要取引先(連結ベースで仕入先・販売先の上位10社程度)などのリストを添付する必要があります。
さらに主幹事証券会社による引受審査においても反社との関係性が詳細にチェックされます。証券会社は反社チェックの結果を含む「上場適格性調査に関する報告書」を作成し、取引所に提出することが求められています。

△ 上場企業が直面するリスク

反社会的勢力との関係が発覚した場合、上場企業が被る影響は計り知れません。まず社会的信用の失墜により既存顧客からの取引停止や新規取引の拒否といった事態に陥ります。企業のブランドイメージが著しく損なわれることで長年築き上げてきた信頼関係が一瞬にして崩壊する可能性があります。
金融機関からの融資停止も深刻な問題です。多くの金融機関は反社排除条項を設けており反社との関係が判明した時点で既存の融資契約が解除され新規融資も受けられなくなります。これにより企業の資金繰りが急速に悪化し事業継続が困難になるケースも少なくありません。
そして最も重大なのが上場廃止のリスクです。証券取引所の上場規程に基づき反社会的勢力との関係が確認された場合には上場廃止となる可能性が高く、これは企業の存続そのものを脅かす事態となります。実際に過去には反社との関わりが発覚したことで上場廃止に追い込まれた企業も存在します。
また、契約書に反社排除条項が盛り込まれている場合、条項違反として既存の取引先との契約が解消され損害賠償請求を受けるリスクもあります。一度反社会的勢力との関係を持ってしまうと脅迫や恐喝による不当な要求を受けるなど二次的なトラブルに発展する可能性も高まります。

■上場企業が実施すべき反社チェックの範囲

△ チェック対象者

上場企業が反社チェックを実施すべき対象は多岐にわたります。まず役員や従業員が重要な対象となります。新規採用時はもちろん既存の役員・従業員についても定期的な確認が必要です。特に役員については企業経営に直接関与する立場にあるためより厳格なチェックが求められます。
株主も重要なチェック対象です。特に大口株主や新規株主については企業経営への影響力が大きいことから慎重な確認が必要となります。個人株主だけでなく法人株主の場合にはその代表者や役員についても確認することが推奨されます。
取引先企業については新規取引開始前のチェックが基本となります。仕入先・販売先・下請け企業・協力会社・代理店など取引形態を問わず幅広く対象とする必要があります。また、取引先企業の大株主や顧問弁護士など外部の関係者も含めて確認することが望ましいとされています。

△ チェックの頻度とタイミング

反社チェックは一度実施すれば終わりというものではありません。上場準備段階だけでなく上場後も継続的に実施する必要があります。上場企業ほど反社会的勢力の介入を受けやすい傾向があるため定期的なモニタリングが不可欠です。
具体的なタイミングとしては新規従業員の採用時・新規取引先との契約締結前・既存株主の確認などが挙げられます。また既存の取引先や従業員・株主に対しても最低でも年1回は定期的なチェックを実施することが推奨されています。
特に重要なのは取引関係が長期にわたる既存取引先の確認です。既存の取引先が気づかないうちに反社に買収されたり監査役などに反社関係者が送り込まれたりするケースも増えています。継続取引の場合契約がそのまま自動更新されていることが多いため問題があっても気づきにくいという課題があります。

■反社チェックの具体的な実施方法

△ インターネット検索による調査

最も基本的かつ手軽な方法がGoogleやYahoo!などの検索エンジンを使った調査です。企業名や代表者名・役員名などをキーワードとして検索しネガティブな情報がないかを確認します。検索結果に表示される新聞記事・ニュースサイト・企業のホームページなどから基本的な情報を収集することができます。
ただしインターネット上の情報は玉石混交であり必ずしも正確とは限りません。また同姓同名の別人である可能性もあるため住所や年齢などの付加情報を確認し慎重に判断する必要があります。無料で実施できる反面、情報の信頼性や網羅性には限界があることを理解しておくべきでしょう。

△ 新聞記事データベースの活用

より信頼性の高い情報源として日経テレコンや各新聞社が提供する記事データベースの活用があります。これらのデータベースには過去の新聞記事が蓄積されており企業や個人に関する報道履歴を体系的に検索することができます。
新聞記事は一定の取材と編集プロセスを経て掲載されるためインターネット上の情報よりも信頼性が高いとされています。事件や不祥事に関する報道・企業の経営状況に関する記事など多角的な情報を入手することが可能です。

△ 商業登記情報の確認

法務局で取得できる商業登記簿謄本は企業の基本情報を確認する上で重要な資料となります。商業登記には会社の本店所在地・役員の氏名と住所・資本金・事業目的などが記載されておりこれらの情報から不審な点がないかを確認することができます。
現在ではオンラインでも商業登記情報を閲覧できるサービスが提供されており迅速な確認が可能となっています。特に役員の変更履歴や本店移転の頻度などは企業の安定性を判断する上での重要な指標となります。

△ 専門調査会社への依頼

より詳細かつ正確な情報が必要な場合には調査会社への委託も選択肢となります。調査会社は独自のネットワークや情報源を持っており公開情報だけでは入手できない情報を収集することができます。
費用は発生しますが重要な取引先や大口株主など特にリスクが高いと判断される対象については専門家による調査を実施することが望ましいでしょう。調査会社は企業の実態調査や代表者の経歴確認・関係者へのヒアリングなど多角的なアプローチで情報を収集します。

△ 反社チェックツールの導入

近年では反社チェックを効率化するための専門ツールが多数提供されています。これらのツールはWebニュース記事や新聞記事などの公知情報から反社会的勢力や犯罪・不祥事に関与した情報を自動的にスクリーニングする機能を備えています。
専門ツールの大きなメリットは膨大な情報の中から高精度な検索を可能とし情報の確認にかかる手間と時間を大幅に削減できることです。また定期的な自動チェック機能を備えたツールであれば既存の取引先や株主の継続的なモニタリングも効率的に実施できます。
多くの上場企業では異なる情報源を組み合わせることで調査の網羅性を高めるという考え方のもと複数の手段を併用して反社チェックを実施しています。

△ 警察や暴力追放運動推進センターへの照会

公的機関への照会も重要な手段の一つです。警察や全国暴力追放運動推進センター(暴追センター)では一定の条件を満たした場合に反社会的勢力に関する情報提供を受けることができます。
ただし無条件に情報提供を受けられるわけではありません。情報提供を受けるためには自社の方針や取引先との契約書において反社排除条項が明確に導入されていること、反社チェック体制が整備されていること、適正な情報管理ができる体制が整っていることなどが求められます。
また、照会に際しては反社に該当すると思われる企業の調査資料や取引資料などの提出が必要となります。ただ漫然と情報提供を求めるのではなく必要性と正当性があると判断してもらえるよう事前に体制を整えておくことが重要です。

■反社チェックの記録保管と証跡管理

反社チェックを実施する際に忘れてはならないのが記録の保管です。「どのような条件で」「いつチェックし」「結果がどうだったのか」というエビデンス(証跡)を残すことは極めて重要な実務対応となります。
上場審査や主幹事証券会社による審査において反社チェックを適切に実施していることを証明する必要があります。そのため検索を実施した日時・使用したキーワード・検索結果の画面キャプチャなどを体系的に保管しておくべきです。
特にインターネット検索や新聞記事検索の場合、検索結果が時間とともに変化する可能性があるため検索実施時点でのスクリーンショットを保存しておくことが推奨されます。またチェックの結果「問題なし」と判断した根拠についても明確に記録しておく必要があります。
記録の保管期間については明確な法的基準はありませんが一般的には取引関係が継続している間および取引終了後も一定期間(3年から5年程度)は保管しておくことが望ましいとされています。

■反社排除条項の導入と社内体制の整備

反社チェックの実施と並行して重要なのが反社排除条項の導入です。取引約款や契約書に反社排除条項を盛り込むことで万が一取引先が反社会的勢力であることが判明した場合に契約を解除する法的根拠を確保することができます。
反社排除条項では排除対象を明確に定義し該当する場合には無催告で契約を解除できる旨を規定します。また契約解除によって生じた損害について賠償責任を負わない旨や逆に相手方に損害が生じた場合には賠償を請求できる旨も明記しておくことが一般的です。
社内体制の整備も欠かせません。反社会的勢力による被害を防止するための基本方針を策定し経営トップが先頭に立って組織全体で取り組む姿勢を明確にする必要があります。また反社対応の統括部署を定め専門の担当者を配置することも重要です。
さらに外部専門機関との連携体制を構築しておくことも推奨されます。弁護士や警察・暴追センターなどとの日頃からのコミュニケーションを通じていざという時に迅速に相談・対応できる関係を築いておくべきでしょう。

■上場後も継続が必要な反社チェック

上場審査を無事に通過し株式市場への上場を果たしたとしても反社チェックの重要性は変わりません。むしろ上場企業となった後こそより一層の注意が必要となります。
上場企業は知名度が高く資金力もあることから反社会的勢力にとっては格好の標的となります。株式を取得して株主となる取引先として接近する従業員として潜り込むなど様々な手口で接近を図ってくる可能性があります。
また上場後は株主の入れ替わりが頻繁に発生するため新規株主の確認も重要な課題となります。特に大量保有報告制度の対象となるような大口株主についてはその都度慎重な確認が必要です。
取引先についても事業の拡大に伴って新規取引先が増加するため取引開始前のチェックを確実に実施する体制を維持することが求められます。またM&Aや業務提携などで新たに関係を持つ企業についても事前の十分なデューデリジェンスが不可欠です。

■反社との関係が疑われる場合の対応

反社チェックの過程で取引先や株主が反社会的勢力である可能性が浮上した場合、適切な対応を取ることが極めて重要です。まず自社だけで判断せず弁護士などの専門家に相談することを強く推奨します。
反社会的勢力との関係遮断においては法的な観点からの適切な対応が求められます。誤った対応を取ってしまうとかえって問題が深刻化したり法的リスクを抱えることになりかねません。弁護士のアドバイスのもと慎重に手続きを進めることが必要です。
また警察や暴追センターへの相談も検討すべきです。特に脅迫や恐喝などの具体的な被害が発生している場合には速やかに警察に届け出ることが重要です。公的機関との連携により適切な対応策を講じることができます。
契約解除を行う場合には反社排除条項に基づき書面による通知を行います。その際感情的にならず冷静かつ毅然とした態度で対応することが大切です。また相手方との直接交渉は避け弁護士を通じたやり取りとすることが安全です。

■まとめ:企業価値を守るために

上場企業にとって反社会的勢力との関係遮断は単なるコンプライアンス対応にとどまらず企業の存続と成長を左右する重要な経営課題です。反社チェックは上場準備段階だけでなく上場後も継続的に実施する必要があり企業活動のあらゆる場面で意識すべき事項となっています。
形式的なチェックに終わらせるのではなく実効性のある体制を構築し組織全体で取り組むことが求められます。経営トップのコミットメントのもと明確な方針を定め・適切なリソースを配分し・継続的な改善を図ることが重要です。
反社チェックの実施には一定のコストと労力がかかりますがそれは企業価値を守り・持続的な成長を実現するための必要不可欠な投資といえます。専門ツールの活用や外部専門家との連携により効率的かつ効果的なチェック体制を構築することでリスクを最小化しながら健全な企業経営を実現することができるでしょう。 投資家や取引先・従業員・そして社会全体からの信頼を獲得し維持するために反社会的勢力との関係遮断に真摯に取り組む姿勢がこれからの上場企業には求められているのです。

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